『ぬくぬく』
2月某日の夜8時。 気温は5℃を下回り、外では深々と雪が降り積もっていた。 そんなクソ寒い冬の日に、俺とあゆみは同じコタツで対面して丸くなっていた。 俺達はただコタツで丸くなっているだけで他に何もする事がなく、 というか部屋にコタツ以外の暖房機器がないせいで部屋中寒くて行動範囲も限られているわけで。 あまりに退屈だったのでつまさきであゆみの足をつついてイタズラしてやったら、 あゆみに「シャーッ」と威嚇されてしまった。 痛く傷ついた。 スキンシップすら拒まれとことんする事がなくなった俺がコタツに右手を突っ込んで温度調節ネジをいじっていると、 ぐぎゅるるるるるるるるぅぅぅぅぅ と、或る意味オナラよりみっともない間の抜けた音が耳を突いた。 もちろん、俺の腹の音じゃない。 「なーんか小腹が減ったねー」 恥らう様子なんぞ微塵もなくあゆみがあっけらかんとぼやいた。 小腹なんてボリュームじゃねぇだろ今の。 「コンビニに何か買いに行くか」 俺がコタツから立ち上がって提案すると、 「にくまんとホットココア」 と、あゆみはコタツに丸くなったまま微動だもせずに俺に注文した。 「…俺一人で行くの?」 「寒くて外出たくなーいもーん」 ぐぎゅぅ、とわけのわからない唸り声をあげてあゆみはコタツに潜り込んだ。 と、思ったらコタツ布団から顔だけ出してガメラかデンドロビウムみたいな体勢でこっちを見送っている。 帰ってきた時、ちゃんと俺がコタツに入る余地譲ってくれるだろうか。 ざっくざっく。 雪に靴が沈む音を楽しみながら歩いていると、 後方からざくざくざくとリズム感のない足音が聴こえてくる。 歩幅が短いせいで追いつけなくなってるのか。 それとも単に俺に気付いてほしいだけなのか。 俺が後ろを振り向くと、影は慌てて電柱の後ろに逃げ込んだ。 電柱からじっとこちらを覗いている阿呆の頭がこちらからは普通に丸見えなんだが、 俺はあえて気付かない振りをして、前に向き直りコンビニへと歩を進めた。 コンビニの自動ドアの前で一瞬立ち止まる。 「いらっしゃいませー」 と声をかける店員の視線が明らかに俺の後方を泳いでいる。 あぁ、やっぱ気になるよな。 しかしリズム感の狂った足音はコンビニの中まではついてこなかった。 素直に店内まで付いて来ればいいものを。 外は寒いぞ。 俺は肉まんとピザマン、それからホットココアを二つ買ってとっととコンビニの外へ出た。 コンビニの外の電柱の陰にあゆみを発見。 あゆみの視線はじっとコンビニの中をうようよと彷徨っているが、 残念ながら俺はお前の真後ろにいるわけで。 一体この狭い店内のどこで俺を見失ったんだろうな。 俺が背後からあゆみのうなじにホットココアの缶を押し付けてやると、 あゆみは「うぎゃぁっ」と悲鳴をあげて電柱にのしかかるようにのぞけった。 面白い。 「よう」 俺が何事もなかったように片手を挙げて挨拶してやると、 「うっす」 あゆみは同じように片手を挙げて挨拶を返した。 「素直に店の中までついてくればよかっただろう」 あゆみは俺の言った意味を理解しなかったらしく、 「迎えに来てあげたんだよー」 と、俺の手に提げていたビニール袋をとっとと奪い取って中華饅頭を頬張った。 「あ、これピザまんだ。あげる」 「肉まんはこっちだよ」 あゆみは食べ差しのピザまんを俺に押し付けて、改めて肉まんを頬張った。 「あったかーい」 「重いんだけど…」 「何か言った?」 「いや…」 あゆみは座椅子の様に俺にもたれながら、俺とコタツの間に割って入るようにコタツに入り込んでいた。 おかげで俺は膝上までコタツからはみ出してしまい、太ももや背中が冷えて冷えて仕方がない。 「足つつかれるよりこっちのスキンシップのが嬉しいんだけどなぁ私は」 後ろから手を回し、あゆみをギュッと抱きしめてやった。 「うん、やっぱこっちの方が、良い」 あったかい。 2008.2.24〜25 執筆
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